六、運命


昌浩殿、貴方は、運命というものを信じますか・・・?




「っ、!!」

昌浩の声が響いた。ひどく切羽詰った声だ。

とっさには上体を捻って勢いをつけ、思いっきり妖鳥に廻し蹴りを食らわせた。

ギェェ・・・・オノレェ・・・

「うるさい。とっとと立ち去りなさい」

力をこめて、そう言った。言霊の、力をこめて。

は、この妖を知っている。それはもう、よく知っている。あいつの、式。

ウ・・・ルサイ、ソコノコゾウニヨウガアルノダ。オマエハ、ドケェ!

「命令される筋合いは、ありません。この方たちに手を出すのは、私が許しませんよ」

私が許さない?

口に出してしまってから、は自答した。

その言い方は、可笑しい。そもそも自分は、こんなご大層なことを言えるような立場ではない。

これから彼等をもっと危険な目に合わせてしまうかもしれない自分が、こんなことを言っていいはずがない。

ドスッ

嫌な音がした。と同時に、妖鳥は跡形もなく消え去った。

くちばしが突き刺さったのだと、気付いた。これはとんだ失態だ。そんなに長い間考えていたつもりはなかったのだが。現実は違ったらしい。

流石に、痛い。心臓を狙って一突きだ。運が悪かったら死んでいただろう。

そんなことを考えている場合ではなのに、の頭は冷静に回転していた。

もしこれで死んでしまえたとしたら。・・・・・いいかもしれない。誰も犠牲にしない、誰の運命にも関わらない。それはそれで、いい。

の体は、ゆっくりと傾いだ。




「て、天・・・・天一!」

昌浩は家につくや否や、皆が寝ているのにもかかわらず大声で天一を呼んだ。

が大変なのだ。皆の安眠のことなど考えていられない。

「昌浩様、どうかされましたか?」

瞬時に姿を現した天一は、昌浩の格好を見て言葉を失ってしまった。つづいて姿を現した朱雀も、目を見開く。

血塗れで立っている昌浩。彼等にとってこれほど緊張が走る光景はないだろう。

「ま、昌浩様!・・・どうなされたのですか!?その、格好は・・・・」

「俺は違う!俺は、違うんだ・・・・・。が、が大変なんだ!天一、早くどうにかしないと、が・・・・っ!!」

そう。昌浩の身体には傷は一つもなく、いたって健康だ。しかし今の昌浩には、それがすごく辛い。何故だか分からないけれど、辛いのだ。

もし自分が代わってあげられたら。もし自分に天一のような力があれば、と思ってしまう。

「分かりました、昌浩様。ですから、そんな顔をなさらないでください。大丈夫、ちゃんとお助けいたします」

「だ、駄目だ!何を言っているんだ天貴!こんな得体の知れない奴を助けることなんてない。それにこんな怪我を天貴が請け負ったら・・・・」

そうだった。冷静沈着な六合でさえも失念していた。天一は怪我を治すのではない。怪我を、わが身に移し変えるのだ。

「朱雀、でも・・・・・」

「絶対に駄目だ。今度こそ駄目だ!・・・一度、死にかけているんだぞ・・・・。昌浩の怪我を移して、一度死にかけているんだ。

あそこまでは行かなくとも、俺は、もうあんな思いはしたくない・・・・・・!」

大切な人においていかれるのは、そんな不安と戦うのは、もういやだ。それは朱雀の心の言葉だった。

天貴に死なれたら、俺は正気を保っていられる自信がない、と。彼は呟いた。

「朱雀、約束をしたでしょう?私は・・・・」

「駄目だ。俺は聞かないぞ。聞いたら、嫌でも絶対に良いと言うことしか出来なくなってしまうから、だから俺は・・・・」

「・・・・です・・・。わ、たしの・・・・めに、大変な思いをすることなんて・・・・・・・ありません」

昌浩の腕を押しのけて、は弱々しく呟いた。思えば、この程度で死ねる自分ではなかったのだ。

!」

昌浩の、悲鳴のような呼びかけが聞こえる。

全く、心配のしすぎだ、と思ってしまう。

「大丈夫ですか、様。そんなお体で歩かれては・・・」

「大丈夫です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

しかし天一の瞳は不安げに揺らめく。あの主候補がいればこの式神がいる。皆揃ってこの家の人は、心配のし過ぎなのだ。

「しかし、傷が・・・・・。やはり私が変わり身を致します。これだけは、譲れません」

「大丈夫、です。でも譲れないと、言ってくださるのなら・・・・・手を、貸していただけますか?」

手と言う単語に、誰もが首を捻った。手が、どうしたのだろうと思わずに入られない。

天一の手を取ると、はその手を額に触れされた。

瞬間、今まで気を保っていられるのが不思議なほどの怪我は跡形もなくなっていた。

「一体、どうなって・・・」

呟く昌浩に、はゆっくり振りかえった。

「昌浩殿、貴方は、運命を信じますか?」

「え・・・あ、うん」

「そうですか。・・・・なら、心配しないで下さい。運命に従っていくとするのならば、私は、死にません」

そして、仄かに笑って見せた。

唖然とする皆を置いて、天一に軽く会釈をして、は自分の部屋へと歩き出した。



戸を閉めて、その場に崩れるようにして座り込む。さっきのあれは、嘘だ。皆に、傷が治っていると言う暗示を掛けた。

いちかばちかだったが、上手く行ってくれてよかった。

「・・・・そう。私は、運命が変わらない限り・・・死ねない・・・・・・・」



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後書き

のわぁぁぁぁぁー!何ヶ月ぶりでしょうか、天宮桜です。

前回からかなりのブランクがありました。この前ってどう言う風に終わったっけ?などと戯けたことを思い、小説を読み返したりしました。

そこで思うのですが、次第にの口調が、変わってきてませんか・・・・?・・・・ま、まあ彼女も心を開きだしたのだとでも、思って置いてください!!

そして今回は、私の大好きな大好きな天一がたくさん話し、大好きな大好きな六合は一言も発しませんでした。

何というか、書いてみて分かったのですが、意外と天一の口調が難しい!朱雀の方はもうのりで行きました、のりで。

私も朱雀の立場だったら、自分の中でどうでもいい奴(=)のことは、かなり辛辣な言葉を吐いて切り捨てると思います。

だってあの天一ですよ?ものすんごく好きなんですっ!!

・・・えー、大分、はなしがずれましたが、恒例のアレ、言ってみようと思います。

何だかお酒によって危ないこと言いまくる昌浩がいます。嫌いな方は見ないほうが良いかと・・・・。






昌浩:昌浩の

二人:夢幻次回予告−その六−!

昌浩:かなり前回との間が空いていますが今回もやってまいりました、次回予告!妙にテンション高い昌浩でっす!

:あいにく、何時もとかわらないです

昌浩:何言ってるんだよはいつでも可愛いぞ

:・・・・熱でもあるんですか?

昌浩:ひっ、ひどい、熱なんかないよ。は俺の言葉を疑っているわけ・・・?

:はぁ。そんな、殆どの男性が一発でノックアウトしそうな俯き加減で言われましても、何とも。

昌浩:もう良いやいっ!もっくんは変な水俺に飲ませてどっかいっちゃうし、は冷たいし・・・・

:昌浩殿、今のところ、もう一度お願いします

昌浩:へ?が冷たいって言うところ?

:そこじゃありません。その少し前の

昌浩:ああ、変な水のこと?

:・・・・飲んだんですか?

昌浩:うん!甘くて美味しかったの〜

:ま、昌浩殿、それは・・・・(流石に動揺する

昌浩:ま、いいや。じゃあゲストを呼んじゃおう!今日のゲストは天一と朱雀!!

天一:ま、昌浩様、どうかなさったのですか?

朱雀:なんか妙に上機嫌だが・・・・

昌浩:えへへー、なんでもないのー。気にしないで♪

朱雀:気にしないで♪といわれてもな・・・

:いいんです、昌浩殿はなにやら酔っていらっしゃるようなので、先にお願いいたします。
    (いつものように原稿を渡す)

天一:そうですか?・・・・分かりました

朱雀:これを読めば良いんだな

:首肯

二人:の様子にどこかおかしさを感じながらも、昌浩はまたいつもの日々を送り始めた。の方も天一と良好な関係をお気づきつつあった。

    そんな中、稀代の陰陽師安部晴明にも気取られることなく、彰子に近づく影があった。次回、第七話 暗雲立ちのぼりつつ

    お楽しみに

天一:次回のゲストは青龍を予定しております

朱雀:ゲストも、だんだんとネタがなくなってきたからな。何かあったら言ってやってくれ

:それでは、今回も、昌浩殿は任せられるような状態ではないので私が。またお目にかかれることを願っております。


12/12  by天宮桜