一、水にたゆふ少女


            西暦二千五年。科学の時代である今も、迷信というのは語り継がれている。

            しかもそれは金持ちである方が、迷信の効果は根深いらしい。


            一族の中から一人、少女を選ぶ。

            その少女は贄姫(にえひめ)と呼ばれ、運命(さだめ)の時まで後生大事に守られる。

            そして運命の時を迎えた姫は、大いなる闇に、捧げられるのだ。

            今、その運命の時を迎えようとした、一人の少女がいた。


            豪華な椅子に座ってみても、慎ましく上に取り付けられた小さな窓から外を眺めてみても、
            彼女は所詮鳥篭の鳥に過ぎなかった。

            そんな彼女の名は、神威(かむい) 。四十九代目、贄姫である。

            彼女は、誰もが恐れを抱く運命の時を、間もなく迎えようとしていた。
            逃げないようにと座敷牢のような所に閉じ込められ、幼い頃よりもっと自由を奪われた。

            そんな生活も約半年。ほとほと、飽き飽きしていた。
            〈・・・・姫よ、贄姫よ。こちらだ・・・・・・・・〉

            ふと、声が聞こえた。
            その声は僅かに神気を帯びていて、人外の者の声であることを物語っていた。

            「・・・又来たの。私ももうすぐ死ぬのだし、いい加減止めたらどう?」

            は、声が呼ぶほうへ歩みながら、静かに問う。 

            するとその声は、さも可笑しそうに、しかし冷笑を響かせた。

            〈くっくっく・・・・馬鹿も休み休み言え、姫よ。
            お前の命の恩人になってやろうと言う我に対して、何たる言い様〉
             
            大して気にした風もなく、声の主は姿を現す。だがその瞳は明らかな怒りを含んでいた。

            「命の、恩人?」

            しかしは気付いた風もなく考え込む。
            この破壊王的トラブルメーカーは、今度は何を考えているのだろうか、と。

            〈贄姫よ、心優しきそなたを、逃がしてやろう〉

            光栄に思え、等と言ってけらけら笑う彼を、彼女は氷の性格を持って切った。

            「いえ、結構。これ以上生きていても意味はないもの」

            彼の眉間に、しわが一本刻まれる。彼は近頃この天然ボケ少女のせいで
            一気に老化(特に眉間のしわ)が進んだような気がしている。

            〈まあ気まぐれだと面付き合え〉

            「い、や。一体今度は何をって、どこ触って!?」

            〈問答無用〉

            なぜか嬉しそうに言って、ついでにのお尻も撫でたりして、
            彼は無理やりこじ開けた時空の狭間に彼女を放り込んだ。

            〈幸せになれよ。もう、戻っては来るな〉

            彼の呟きは誰にも聞こえることはなく、風の中に消えていった。
            これは一体、どうしたことだろうか。俺はまだ寝ぼけてるのか?いやいやそんなことはない。
            だって、隣りにいるもっくんだって、目を見開いているんだから。

            思い出したように身震いをする物の怪のおかげで、昌浩は自分の世界から帰還を果たした。
            「昌浩や、一応池から出してやれ」

            空から池へと落ちてきた”もの”のおかげでしたたかに濡れた狩衣をたくし上げて、
            昌浩は池へと入っていく。そして幻想的に池に浮かんでいる”もの”を抱き上げると、
            歩きにくそうに戻ってきた。

            濡れているので廊下に寝かせることも出来ず、かといって庭に寝かせるわけにもいかず。
            諦めたようにため息をついて、昌浩は”それ”を抱きかかえなおす。

            「ねえもっくん」

            「なんだ昌浩。お前が言いたいことは多分俺が思っていることと同じだが、とりあえず言え」

            「女の子、だよね・・・・?」

            「・・・・・・・・ああ、そうだな・・・」 

            二人は揃って、昌浩の腕の中の少女を見やる。

            腰より下くらいまである髪は池の水でしっとりと濡れて、高そうな着物も、高そうな帯も、
            高そうな帯止めも、おまけに高そうな簪も台無しだ。

            しかしそんなことより二人が気になるのはどうして彼女が空から降ってきたのか、と言うこと。 

            は、平安時代にやってきていた。知らぬは本人ばかりであったが。




           
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           後書き

            
           短いです。そしてしょっぱなから主人公を、“それ”や“もの”呼ばわり。・・・ごめんね・・・・・・。 
           
           次こそは頑張ってもう少し長く書きます!
           
           そして主人公は仮の名を語り、少しづつ事情が分かって行く。・・・・・はずです。
           
           あと、主人公と昌浩による次回予告を、今回やってみようと思います。(少々ネタバレあり)
           
           ではどうぞv


            
           
            
           昌浩:昌浩の
            
           二人:儚き夢幻を守りぬけ(以下、夢幻)次回予告!
           
           昌浩:っと言うことで、皆さんはじめまして!夢幻、隠れ主人公の、安部 昌浩です
            
           :初めまして、夢幻主人公の、神威 です
            
           昌浩:えっと、じゃあまず、予告の前に自己紹介から。さん、どうぞ
            
           :神威 です。年齢は十六歳、趣味は笛。髪は腰より長く、睫が長いらしいです。
            
              好きな花は梔子で、好きな言葉は花鳥風月。
           
           昌浩:じい様の息子の息子の昌浩です。年は十四、特技は・・・・・妖魔調伏!
           
               じい様が言うには、顔はばあ様似。好きな香は伽羅で、嫌いな言葉は晴明の孫!!
            
           昌浩:ってなことで、ちゃちゃっと次回予告しようか。
            
               ・・・でもさ、思ったんだけど・・・・・俺達まだ会話すらしてないよね?
            
           :そうね。あの作者の考えることは、私には分かりかねるわ
            
           昌浩:あ、右に同じ〜。俺なんか出てきて早々ずぶ濡れだしさ。勘弁して欲しいよ、ほんとに
            
           :・・・・・・私はあえて黙秘権を施行します
            
           昌浩:(なんか調子狂うなぁ)じゃあ、次回予告に移ろうか
            
           :(首肯)
            
           二人:すぅ(深呼吸)。いきなり安部家に現れた少女。彼女は一体何者なのか。
            
               そして十二神将達は彼女を一体どう受け止めるのか。
            
               安部家で一人孤立するの身に、一体何が。次回、第二話 異邦人。お楽しみに
            
           昌浩:あー言った言った。息続いてよかったよ。全くこんな長い台詞にするなんて、
            
               桜のやつ何考えてるんだか・・・・
            
           :・・・・・ところで昌浩殿。十二神将とは?
            
           昌浩:ああ、十二神将ってのはね、じい様の式神なんだ。騰蛇、勾陳、青龍、六合、
               太陰、玄武、天后、天一、朱雀、白虎、太常、天空からなっているんだ
            
           :そうですか。覚えておきます。ではもうそろそろお時間のようです。
            
               次はゲストに、晴明様がいらっしゃいます
            
           昌浩:げっ!何でじい様!?て言うか、さり気にどうしてじい様だけ様付けなの?
           
           :晴明様は晴明様だからです
            
           昌浩:いや、もうちょっと詳しく・・・・・
            
           :では、これで。またの機会を楽しみにしております
            
           昌浩:ちょっと、っーーー!