四、似た雰囲気、似た面差し





『俺の名は、十二神将 六合』

『六、合・・・・・?』

は、初めて六合と会った時のことを思い出し、一人ため息をついた。

六合は、似すぎているのだ。彼女のたった一人の心の支えであった、兄に。兄といっても遠縁の親戚なのだが。

誰もが彼女を忌み嫌い、生贄としての物としか考えていなかった中、

彼だけは彼女を一人の人間として扱ってくれた。

隼人。それは、に沢山のものをを与えてくれた、今は亡きたった一筋の光。

「隼人兄様・・・・・」

の小さな呟きは、夕暮れの空へと消えていく。

自分のせいで死んでしまった人を、はまだ忘れることが出来ない。



                    




・・・・・!どこにいるんだ、・・・」

幼い頃、一人母屋から離れた離れに住むの元に、隼人は毎日こっそりと遊びに来てくれた。

「隼人兄様、私のと頃へ来ては皆に叱られてしまいます。すぐにお帰りを」

それはが十後歳の時のこと。今から約一年前。彼女はもうすぐ十六の誕生日を迎えようとしていた。

年齢や、少々童顔の顔に似つかわしくなく大人びた口調のの頭を撫でで、隼人はにっこり笑う。

、あいつ等のことなんて気にしなくてもいいんだよ。は、のしたいようにすればいい」

そしての言葉を無視して、さっさと上にに上がる。

「それとも・・・は俺が側に居るのが嫌なのか?」

「そんなこと・・・・・・ある訳ないじゃないですか。隼人兄様は私が強気に出られないのを利用して・・・ずるい」

でも、はそんな彼が大好きだった。愛してるといっても、過言ではないくらいに。

彼が側に居てくれる時間は本当に幸せで、日々の嫌なことや辛いことを忘れさせてくれた。

こんな時が、自分が運命の時を迎えるまでずっと続いてくれると、彼女は信じて疑わなかった。

至福の一時が、あんなにも脆いものだとは、思ってもみなかったのだ。

「流石に楽しそうに話している所を見られてはいけませんから、中に入りましょう」

彼女が話せば返してくれる笑顔は、すごく優しかった。



・・・・少し、大事な話があるんだ・・・」

一口茶を飲んで、隼人は真剣にそう切り出した。向かいに座って小首を傾げるから一旦視線をずらして、

そして、彼女の瞳をじっと見つめた。

、もうすぐ誕生日だな。・・・十六になったら・・・・・・・・・俺と、結婚してくれないか・・・?」

一瞬彼が何を言っているのか分からず、はそのまま固まってしまう。

「君が贄姫だって事は分かってる。でも、あんな奴らのためにが死ぬ必要なんて、どこにもないだろ!

俺はを助けたい。でも何の力もない俺には、何もしてやれないんだ。だから・・・・・結婚しよう」

自然と、の頬を涙が伝った。こんな優しい言葉、親にもかけて貰ったことがない。

贄姫の条件として、純潔であることが上げられる。

何も出来ない彼が唯一条件を満たさなく出来るのは、これだけだから。

結婚した女性では、贄姫の役目を果たすことは出来ないから。だから彼は、結婚しようといってくれたのだ。

「隼人、兄様・・・・・・。・・・私などで、よろし・・・・・かったら」

涙は止めどなく流れ出て、の頬を、心を・・・濡らした。






が誕生日を迎える前夜のこと。隼人はいつものように離れにやって来た。

、行こう!」

そしての手を掴むと、彼は何も言わずに塀へ向かって走り出した。

何分、昔を辿れば後醍醐天皇辺りに行き着くこの家だ。離れから塀までもかなりの距離がある。

塀が目前に迫った時、暗いはずの辺りに灯りが燈った。

「隼人!そんな女と何処へ行こうというの!?私というものが在りながら、どうしてそいつなのよ!!」

甲高くヒステリックな声が響いた。声の主は十中八苦、神威家が決めた隼人の婚約者・撫子だろう。

仄暗い中から現れたのは、やはり彼女だった。

「撫子・・・・退いてくれ。俺達には余計なことをしている暇はないんだ!」

「嫌よ!私は貴方の婚約者なの!神威家が認めたのよ。なのに・・・なのにどうして、よりにもよってその女なの!?」

撫子はもう一度ヒステリックに叫んで、隼人に駆け寄り抱き付いた。

「撫子!止めるんだ!!」

「いやっ!私は・・・私は、その女なんかよりずっと貴方のことを愛してる!」

なおも抱きつく撫子を強引に引き剥がし、隼人は再びと共に走り出そうとする。

その時、隼人に手を引かれるまま走り出そうとするの腕を撫子が掴んだ。瞳には憎しみを浮かべている。

「貴女ね・・・・貴女が私の隼人を惑わしているのだわ・・・。あなたが死ねば、隼人は私の元に返ってきてくれる!」

どこから取り出したのか、撫子は日本刀をに向かって振り下ろした。

咄嗟のことにも反応が出来なかった。

嫌な音と共に、鉄の臭いが辺りに飛び散る。しかし、刺されたのはではなく隼人だった。

「は、はや・・・・隼人、兄様・・・?」

背中に嫌な汗をかいている。心臓の音が大きすぎて、耳障りだ。それに、この目に見えているものはなんだろう・・・。

心臓の辺りを日本刀に貫かれて横たわっているのは、自分ではない。自分ではなく・・・・・・・隼人だった。

「に・・・・げろ、・・・・。はや・・・く」

「何、言っているの・・・ねえ隼人兄様、隼人兄様!隼人、隼人隼人隼人!!・・・・っい、いやああぁぁぁぁぁ!!!!」







嫌な思い出とは鮮明に残っているものだ。こんなにもはっきり思い出せるとは、思っても見なかった。

あの時隼人に貰った指輪を、はネックレスとして今も大切に持っている。

忘れたくても忘れられない記憶。忘れたいけど忘れてはいけない記憶。それは、とても辛いものだ。

ふわりと風が吹いて、を走り抜けていく。それに乗って来た気配で、初めて誰かがいることに気付いた。

たしか、この気配は・・・・・

「六合・・・・」

戸がゆっくりと動く気配がした。

・・・・昌浩が心配しているぞ」

「昌浩殿が?・・・・・・立っていないで、こちらにどうぞ」

入り口で立っている六合を、隣りに座るように促す。

すると彼は何も言わずに隣りにやってくると、やはり何も言わずに座り込んだ。

「騰蛇も昌浩がお前を心配しているのが気に食わないらしくうるさい」

「そう。・・・いいのではないですか?楽しくて、仲が良さそうで」

そして、うらやましい。

喉まで出かかった最後の言葉を、自分がそんなことを思っていた驚きと共に飲み込んだ。

は、自分が自分に無頓着すぎることは自覚していたが、ここまで来ると笑えるものである。

独りでに喉を鳴らすに、六合が心配そうに声を掛ける。

「・・・、笑い事ではない」

彼は静かで、それでいて優しくて、側にいて心地がいい。

無表情だけれど本当は情熱的だろう所も、低い声も、心を落ち着かせてくれる。

何より、その顔が、その声が、その雰囲気が・・・・・隼人に似ているのだ。別に代わりにしているわけではない。

けれどやはり、似ているのだ。

それと、たまに見せるあの切なそうな、誰かを思う顔が近親感を抱かせているのかもしれない。

「近頃お前は・・・・俺を見て何を思っているんだ。否、俺を通して、誰を思っているんだ・・・・・?」

「・・・べ、つに誰も・・・・・・」

歯切れの悪い答えをよこすを一瞥し、六合は何も言わず視線を戻した。

「この前のことを気にしているのではないのなら、それだけでも昌浩に言ってやれ」

「さっきから・・・・・昌浩昌浩!そんなに昌浩殿のことが大事なの!?

あなたの大事な昌浩殿のために、私は・・・・ものを思うことも許されないの・・・?」

六合が“昌浩“と言うのが、ひどく気に食わなかった。だから、普段淡々と話すは声を荒げてしまったのだ。

、違う・・・・・」

「何が違うの?何処が違うの・・・?自分は誰かを思っているくせに、偉そうに説教しないで!」

「・・・っお前に、お前に何が分かる!お前に、風音と俺の何が分かる!!」

安部邸に、珍しく荒げられた六合の声と、小気味のいい音が響いた。



 

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後書き

皆様こんにちは、天宮桜です。少し間が空いてしまいましたが、夢幻の第四話です。

今回は主人公の過去が少し分かってしまうと言うお話でしたが・・・・はっきり言って微妙ですね・・・。

そしてかなり強引です。年の設定が・・・・・主人公にもっと年を取らせておくべきだったと思っております。

さて、何やら六合と妖しい主人公ですが、これはあくまでも昌浩が相手役です!(←ここ強調)

っと言うことで、次も頑張るぞ!!






昌浩:昌浩の

二人:夢幻次回予告−その四−!

昌浩:えー皆さんこんにちは、昌浩です。今回はの過去が少し明かされたけど、どうだった?

:どうだった?と訊かれても微妙と答えるしかないと思いますが・・・?

昌浩:うっ・・・・い、いいんだよ!って言うか俺、又出て来てない・・・・・今回出て来たのと六合だけだし!

:いえ、出ていらっしゃいました。・・・・名前だけ

昌浩:名前だけじゃん!ひどいよ、近頃俺の扱いがもっくんに似て来た!

:毎回毎回これが終わるたびに馬鹿だのひどいだの叫ぶ昌浩殿に言われたくはありません

昌浩:ふ・・・ふん!じゃあ今回のゲスト呼びます!今回は、頼れる旦那こと六合!!

六合:・・・・・旦那・・・?

昌浩:何、何か文句でもあるの六合!?何かちゃっかり自分だけに普通に呼んでもらってるり・く・ご・う!!

六合:・・・・普通に呼んでもらいたいのか?

昌浩:ち、違う!俺のことは言いから六合、さっさといつものお願い!
    (原稿を渡す)

六合:・・・・分かった。

    触れてはならないことに触れてしまった。そして思わず声を荒げてしまった六合。

    お互いに言い表せない微妙な思いを持ちながら、夜、昌浩に付いて行く二人だった。

    その微妙な思いが原因ではひどい傷を負ってしまう。次回、第四話 私の思い、貴方の悲しみ

    お楽しみに

昌浩:今回なんか長かったね

:そうですね。あの人も即興で考えますから、その日の気分次第で長くなったり短くなったりします

昌浩:そっか。じゃあ、そろそろ時間です。次のゲストは朱雀と天一を予定してます!

六合:・・・では次回もお楽しみに・・・・・・